捕捉高エネルギー粒子駆動抵抗性交換型モードの安定化

磁場閉じ込め型核融合炉においては、重水素や三重水素といった水素の同位体の核融合反応によって高いエネルギーを持ったヘリウムイオンを生成することで高温の状態を保持することが計画されています。核融合反応によって生成されたヘリウムイオンはα粒子と呼ばれていますが、プラズマ中の水素の速度が100km/s 程度の速度であるのに対して、15000km/s程度の高い速度を持っています。このα粒子をゆっくり減速させてプラズマにエネルギーを与えることでプラズマを高い温度を持つ燃焼状態に保つことを期待するわけです。 高いエネルギーを持ったα粒子はプラズマ中を高速に周回しますが、プラズマ中に存在する波の速度と同程度の速度で運動するときには、波にエネルギーを与えて波を異常に大振幅にしてしまうことがあります。この大振幅の波はプラズマの閉じ込め特性を大きく劣化させるために核融合反応を持続するうえで大きな障害となると考えられています。トカマク型の装置においては、その波の形が魚の骨に似ていることからフィッシュボーン(魚骨)モードと名付けられた波がこのメカニズムによって励起されることがよく知られており、フィッシュボーンモードの発生を避けることは大きな課題となっています。 大型ヘリカル装置では、プラズマを加熱するために使われている中性粒子ビームの粒子はプラズマ中のイオンよりも高いエネルギーを持ちα粒子と同様にプラズマ中を高速に周回しています。この高エネルギー粒子がプラズマ中の波と同程度の速度で運動するときにはEIC(ヘリカル捕捉粒子駆動抵抗性交換型モード)と呼ばれる特徴的な波を励起することが観測されてきました。EICの発生はプラズマ閉じ込め特性の劣化を招き、プラズマを加熱するはずの高エネルギー粒子を損失させますので、高性能プラズマを維持するためにはその発生を防止する必要があります。わたしたちはこのような高エネルギー粒子とプラズマとの相互作用について研究を行い、プラズマと高エネルギー粒子の共鳴現象を抑制することでEICの発生を防ぐことができることを見出しました。 図1に示すように、高エネルギー粒子はプラズマ中をヘリカル状の軌道を描いて周回します。

EIC_fig1 図1 大型ヘリカル装置のプラズマと高エネルギー粒子

この高エネルギー粒子がプラズマ中の波と無関係に運動していれば(図2最下段)問題ありませんが、プラズマ中の波とともに運動すると、すなわち、波と共鳴すると、波にエネルギーを与えて波の振幅が異常に大きくなることがあります(図2中段)。このとき波の空間的な幅を狭めることができれば(図2最上段)、たとえ共鳴する条件であっても高エネルギー粒子が波に与えるエネルギーが小さくなるためにEICが発生しにくくなることがわかりました。波と粒子の共鳴は幅広い条件下で起きるので、共鳴していてもEICを発生させないこの手法は大変有用です。波の幅を狭くするためには電子サイクロトロン共鳴加熱という方法で波の生じている領域の電子温度を上昇させることが有効であることが判明しました(*)。さらに、波の波形を乱す外部摂動磁場印加という手法もEICの発生を抑える効果があることを発見しました。 このような手法を使うことでEICの発生を抑えると高エネルギー粒子を安定にプラズマ中に保持することができます。そのためイオン温度を上昇させるうえでEICの抑制が非常に有効であるという初期結果も得られています。

EIC_fig2

図2 高エネルギー粒子と波との共鳴現象の模式図

*X.D. Du et.al., “Suppression of Trapped Energetic Ions Driven Resistive Interchange Modes with Electron Cyclotron Heating in a Helical Plasma”, Physical Review Letters, 118 (2017), 125001